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俺には不器用な母がいる

2012.05.04 20:45|いっちゃんの家族

じゃ、そんなわけで。
またしても全然カップリングじゃないお話をどうぞ。


*  *  *



―――俺は昔から、何をやろうとしてもあまりうまくいかなかった。

姉さんはそんな俺を信じられない目で見つめていた。
姉は昔から何でもできたから、それが理解できなかったんだと思う。

父さんは特に何も言わなかった。
学芸会で大失敗した時も、宿題が解けない時も、逆上がりがクラスで1人だけできないときも。
それに対して怒ったりするなんてこと、無かった。
無関心に近いのかとも思っていた。
俺のこと、どうでもいいのかもとも思った。



母さんは。



母さんは、ちょっと変わっている。

何でもできた父さんじゃなくて。
何でもできる姉さんじゃなくて。


何もできない母さんが。

俺の手を引いて、公園につれてきて。
瞳をきらきらさせて『練習しよう!』って言った。
母さんだってできないのに。母さんだって下手くそなのに。

『どうせできないよ』
『そんなこと言わないで!いっちゃんだって、できるようになりたいでしょ!』
『俺は母さんに似てるから、こういうのできないんだよ!』

そう言うと、母さんは悲しそうな顔をする。
だけど――すぐに強い瞳で俺を見つめる。

『できるよ』

俺の手をぎゅっと握って、言った。

『一緒にがんばろ』

その手は強くて暖かい。
たいしたことできないはずなのに、その手に触れていると元気になれる。
頑張ろうと―――思った。









俺の名前は、入江一樹と言う。
もちろん、かずき、と読む。
母さんは何故か俺のことをいっちゃんと呼んでいて―――実の息子なのに、わかってるのか?と思うけど…それはまあ置いておいて。


「楽しかったな、今日も」
「ほんと!入江くんがいると本当に面白い」
「は?俺のおかげなのかよ?何その、宴会部長みたいな名指し」
「だってぇ、入江くんっておかしいんだもん」
「いいよな入江は!女子に人気があって」
「そんなこと言って!加藤くんのほうが入江くんのこと大好きじゃん!」
「うわっ!まじかよ加藤、悪いけど俺そんな趣味ないから」
「俺だってねえよ!何言うんだよお前ら!」
「だってさ、入江くんって男女問わず仲良しじゃん」

たくさんの友人に囲まれて、俺は帰路を歩いている。
俺は、容姿は父に似ていると言われる。
黙っていれば。

頭は、あまりいい方じゃない。
だけど俺の周りにはA組の子だっているし、F組の奴だっている。
運動神経も、実はあまりいい方じゃない。
だけどこれは…努力したりしている。
人並みになったのは、母さんがこっそり連れて行ってくれた「秘密の特訓」のおかげかもしれない。

「入江が来るって言うと、すごく人が集まるもんな」
「俺ってそんなに人気者だっけ?」
「調子に乗るな!」

きゃっきゃっと笑い合う。
この社交性は、俺が独自で身につけたものだ。
もしかしたら母に似たのかもしれない。
父でないことは確かだと、思う。


「―――じゃ、俺こっちだから」
「うん、また明日学校でね」
「じゃあな」

俺は手を振って、その場を立ち去る。
携帯を見て時間を確認―――この時間なら、タイムセールが終わっている時間だ。
俺は真っすぐ家を目指さずに、とあるスーパーへ足を向けた。












「…やっぱり」
「はれ?いっちゃん?」

目を大きく開けて、母さんは俺を見る。
俺がここにいるのを不思議がっている様子だ。

その両手は大きな袋で塞がっている。

「どうしてここにいるの?」

少し首を傾げて、母さんは笑う。おかえり、と何故かここで言ったりする。

「またどうせ、特売だからって買い過ぎたんだろ」
「うっ!ど、どうしてそれを」
「母さんってワンパターンだから」

それに加えて、学習能力が無い。

そっと母さんの手からその袋を取り上げる。
本当に重い。
どうしてこんなに、持ってるのも母さんにとってはきつい量を買ったりするんだか。

「い、いっちゃん」
「ほら、帰るんだろ」
「い、一個持つよ」
「大丈夫」
「本当?」
「本当」
「だ、だってあまり重いもの持つと、背が伸びなくなっちゃうとか言わない?」
「……言わないと思うけど」

俺は、左の袋を差し出した。
こちらの方がかろうじて軽い。

「…じゃあ、持って」

やはり、2つはきつかった。
…決して母さんの言うオカルトな身長伸びない説が不安になったわけじゃないぞ。一応。

母さんはにこっと笑う。

「―――うん!」











母さんは俺の斜め後ろにいる。
歩く歩調は緩めてある。
うっかり母さんを置いて行ってしまったことが昔あるから。
だけど並んで歩くにはちょっと恥ずかしい。

「いっちゃんって」

母さんの明るい声がした。

「どんどん入江くんに似てくるね」

母さんは変わっていて、父さんのことを「入江くん」と呼ぶ。
自分の名字だって入江のくせに。
これは長年のくせらしい。

「俺はそうは思わないけど」
「ううん、そんなこと無いよ。最近特に似てきた」
「俺は嫌だね、父さんに似るの」

これは本心だった。

父さんは、よく「完璧」と言われる。
たぐいまれなる秀才だったらしいし、今だってそこらじゅうの学会に呼ばれるすごい医者らしい。
母さんがよく自慢げに話してくれる。
だけど、俺は思う。

あの父の存在は、俺にプレッシャーを与える。
父はそれをわかっていて、俺にあれしろこれしろとは言わない。
そういうことが最近わかってきた。

しかし偉大な親を持って失敗している子供は多々いる。
そんな子供と俺の相違点、それは―――。

「そうかなぁ、あたしに似るより入江くんに似たほうがいいと思うけど」

母さんだと思う。

よく幼いころ、俺は母さんに言った。
『母さんに似ているから、俺は不器用なんだ』って。
『父さんに似れば良かった』って。
母さんはいつだって少し傷付いた顔をしたけれど、『本当だね』と笑った。
だけど、母さんは俺の手を握って『がんばろう』と言った。


それを繰り返していくたびに、俺は思ったことがある。

強くなろうと思った。
―――みっともなくても、馬鹿でも、うまくいかなくても。

そうやって、頑張れる自分が。
そういうところが母さんに似た自分が、俺は実は嫌いじゃない。



「F組はF組で楽しいよ、勉強ばっかやらされないし、気ままだし」
「あっ遊ぶためにF組にいるなら怒るからね!お母さんはF組でも勉強頑張ってたんだから!」
「努力は実らなかったけど?」
「そうそう…って!こら!いっちゃんってば!」

少し早足で、俺の隣に追い付いて。
むっとした表情でこちらを睨みつける母さん。

母さんは幼い。
若いっていう表現より――幼いという表現のほうが当たっていると思う。

「そういうとこも!似てきた!」
「へっ?」
「そういう意地悪なところ!」
「意地悪…って…事実じゃん」
「んもー!そういうのが意地悪だってば!」

ぷりぷりと母さんは怒りながら、俺を歩いて抜かそうとする。
俺は抜かされまいと、2人で競歩みたいな歩き方になる。
たまらず2人してくすくすと笑いだす。

「あのね、いっちゃん」
「ん?」
「さっきね、いっちゃんの背中を見ていたら――まるで高校時代にタイムスリップしたみたいだなあって思ったの。まるであの頃の入江くんと歩いているみたいだって思ったんだよ」

母さんは――いつだって父さんが一番だ。
それを俺はよく知っている。

「そうやってね、さりげなく荷物を持ってくれる優しいところ。似てくれて、嬉しいな」

そうやって母さんは笑うけど。
父さんがそうやってあげるのは、そうやってあげたいと思うのは母さんだけだと思うし。

俺だって、さ。
わざわざスーパーのタイムセールの時間を、このモノ覚えの悪い頭にたたき込んだりすることは、たった一人のためなんだ。

母さんが買い過ぎるのはいつものことだから。
あの細い腕で必死で荷物を運んでくるのもいつものことだから。
姉さんに「マザコン」と言われるだろうと思っていても、こうやって行ってしまうのだから―――俺も相当な重症。


「……っくんだよ」
「え?なあに?」
「秘密の、特訓」

俺はその重い荷物を上下させながら言った。
母さんの顔がぱあっと明るくなる。


昔はどうして、俺は父さんに似なかったんだと思った。
姉さんみたいに似れば良かったと何度も思った。
でも――今は違う。

母さんに似れて良かったと思う。
父さんに似ていたら、父さんを超えることなんて絶対出来なかったと思う。

母さんみたいだから、俺は頑張ることができる。
今、守りたいものを守るため。
そしていつかできるであろう守りたいものを守るため、俺は頑張ることができる。


「いっちゃん!だいすき!」

母さんが無邪気に俺の腕に腕を絡ませてきた。
俺はびっくりして、思わずそれから逃げ出す。

「なっなにするんだよっ」
「えぇ~っ、つめたいぃ」

口を尖らせて、母さんは言う。
ってそんなかわいい顔したって駄目だから!俺のことあんたいくつだと思ってるの!

「俺もう、母親とそんなべたべたする年じゃねえし!」
「あっ、ま、待ってよぉ…歩くのっ速い」

思わずいつもの歩調で歩いてしまって、俺はしまったと立ち止まる。
母さんは息をはあはあ言わせて俺のところまでたどり着き、そして笑った。

「ありがと!」


母さんは、ずるい。
この笑顔で何もかも許されてしまう。
そしてその裏が特にないから特に―――たちが悪い。

これが姉さんなら。
容姿は母さんにそっくりで、中身は父さんにそっくりな姉さんなら。
何か裏があるに違いないと勝手に脳が判断してしまうのだが…。


「ほら、さっさと帰ろう」
「うん!いっちゃん!」


…なあ、どっちが保護者なんだよ。
母さんは世話がやけて、本当に困ったもんで、それでも。




―――俺にとっては、唯一無二の大切なヒトなのでした。











( 偉大なんかじゃないくせに 何故だか一生勝てない気がする )


















…入江くんの容姿で、頭は琴子に似たら結構きついんじゃないかと思います。
それでも琴子の良さを引き継げば、すごくいい子になるんじゃないかな。



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コメント:

初めまして♪

こんばんは、更新お待ちしてましたぁ~♪ヽ(´▽`)/
いっちゃんのお話はこれで終わりじゃないですよね?
今後、いっちゃんと直樹が琴子を取り合う戦いが繰り広げられるのでしょうかぁ!?
きゃー(~▽~@)♪♪♪楽しみですぅ!!!
次の更新楽しみにしています!!

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コメント+拍手返信ですw

本当に更新も返信も延滞していてすみません…。
意外にこの話が好評で、石を投げられないことにびっくりしました(笑)
ありがとうございましたw
以下返信です。

ぴくもんさん
>>こっこちらこそご無沙汰しております。確かに気付けばもう初夏になったのに、新しい日々になれない嘉村です。ぴくもんさんはお疲れだそうで…ご無理なさらないでくださいね(><)
拍手コメ、ありがとうございましたw
私の連れの些細なひとことから始まったおかしな設定ですが、そんなに仰っていただけて私は幸せ者でございますぅww
こういうのを書くと、つくづく私はがんばる琴子が好きだなぁと思います☆
琴子に勝てないという点では入江くんも一樹くんも確かに同じですよね。実は一樹くんは気付いていないけど若干ツンデレなところも似ているかもしれません(笑)でも反発しあうのが父と息子なのは王道なんで♪
返信遅くて本当に申し訳ありません♪次回も超のんびりですが、よろしくお願いします。そしてぴくもんさんのところにもまた伺いますので!!
ありがとうございましたw

A-ちゃんさん
>>ありがとうございます。
このお話を読んで何か感じることがあったなら、尚更嬉しいです。

ジュリママさん
>>はじめまして。
入江くんと一樹くんの、琴子の取り合いは…あるかどうかはお楽しみに(笑)たぶんそんな萌え萌えするような展開は皆無かと思いますが(汗)楽しみにしてくださってるのに水を差すようで申し訳ないです…。
でも●●●●●な入江くんは見れると思います←
コメントありがとうございました!


あやみくママさん
>>いっちゃんのことを気に入ってくださってありがとうございますw確かに琴美よりは一樹のほうがずっと幸せそうに見えるかもしれませんね。そんなことを言われると琴美の苦悩の話も書きたくなりますが、だったら入江くんの苦悩の話も書きたくて…でも時間が(汗)
私も何をやっても残念なのですが、琴子のがんばりを見てるとがんばろーって思えるので、きっと彼女の背中を見て育つ彼もそうなんじゃないかなあと思いました。はい、末期ですスミマセン(笑)
コメントありがとうございました♪

まあちさん
>>ありがとうございます♪
いっちゃんのことを気に入ってくださって嬉しいですw
オリキャラ男子を書くときの力の入れようがわかりやすくてすみません…(楽しいんで…)
きっと琴子似なんで昔は泣き虫でドジで大変だったと思いますが、彼はきっとすごーく成長していったんだと思います。それは入江くんと琴子の背中を見ているから。あの2人はやっぱり最高ですw
素敵なお言葉、嬉しいです(^^)いつもありがとうございますw

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嘉村のと

Author:嘉村のと
素敵なイタキス二次創作に憧れて、うっかり立ち上げてみたブログです。
イリコトってすごく難しいのですが、「別人だよ」と言いながらもがんばって妄想世界へこきだしていこうかと思います。

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