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恋かもしれない35題 15「それもひとつの愛のかたち」(11の続き)

2011.12.16 21:19|お題
…ごめんなさい、入江くんじゃないです(汗)



*  *  *












はぁ、と息を吐く。
全速力で走ったから、息が切れていた。


もう、彼の居る医局にいけるはずもない。
どうしていいのかわからずに、彼女は屋上へ来ていた。

青い空と、風にたなびくシーツ。
こんなにも世界は晴れているのに、彼女の気持ちは暗く沈んでしまった。
ちらりと手に持っているお弁当を見て、それをあちこちに放り投げたい衝動に駆られる。

きゃっきゃっと琴子に質問してきた若いナースたち。
楽しそうに話を聞いていたのだが、影ではああやって琴子を嘲笑っていたのだろう。
彼女たちだけではない。
他にもきっと影で笑っている人間がたくさんいたはずだ。

「あたしがバカだから、気付かないだけだよね」

力なく笑って、彼女は自分の髪をくるくると触れる。

「…慣れてるもん」

その場にしゃがみ込む。
体育座りで、膝に顔を押しつける。

あぁ、涙が出そう。
彼女は思う。

彼を信じていないわけじゃない。
自分を選んでくれたのだ。
だから、それだけでいいはず。
他の誰に何を言われようと、事実は2人の心の中だけにある。
それなのに―――外野の言葉でこれだけ揺さぶられる。





「…琴子か?…寝てるのか?」

背後から声がして、彼女は顔を上げる。
振り返るとぎょっとした顔の啓太がいた。

「何だよ、お前、その顔」
「へっ?」

顔に触れると、頬が涙で濡れていた。
結局こぼれてしまったのだと、彼女はごしごしこすりながら思う。

啓太はなんとも困ったような顔をして―――彼女から8メートルくらい離れた位置に並んだ。

「何、泣いてんだよ。またミスしたのか?」
「ううん」
「じゃあ入江関係か」
「……」

彼女が答えなかったので、そうか、と思う。
彼女を覗き見ると、彼女はまだごしごしと顔を拭いている。

足を動かそうとして―――止める。
彼女との間にいつもより大きく間隔をとったのも、そのためだ。

普段の元気な彼女なら、いいのだけれど。
不安定な彼女は、どうしてか、ぐっと引き寄せられる力を持っている。
彼女が悲しい顔をしていると慰めてあげたくなる。
好意があれば、抱きしめてあげたくもなる。

不意に見せる彼女の色んな表情が、意外に破壊力を持っていることを、啓太は身を持って理解していた。
もう既に過去のことなのだから、彼はこれ以上は近付かないようにする。

「あたし…」

ぐすっと鼻を鳴らしながら、彼女は言う。

「どうしてこんなにできそこないなんだろう」
「どうしたいきなり」
「だって、だって…、あたし女としても看護師としても尊敬できないって」
「……なんだそれ」
「何にもできない可哀想な人だって」
「それを入江が言ったのか?」

彼女は首を振る。
だろうな、と啓太は頷く。

「なら関係ないだろう。誰に何を言われたか知らないけど、気にするな」
「……」

彼女は俯いてしまう。
意外と重症なんだな、と啓太はため息をつく。

「……だって」
「ん?」
「啓太だって」

彼女はすくっと立ち上がる。
きっと彼を睨みつけた。

「啓太だってあたしがかわいそうに思えたんでしょっ」

イー、と言うように歯を見せて、彼女は言った。

「あのときだって、旦那に大切にされない女、って、かわいそうに見えただけなんでしょっ!あたし、看護科の成績だって悲惨で、実習も悲惨で、何にもできなかったもんね!」

さすがに、彼もカチンと来た。

「はあ?ふざけんな!」

何故自分までも引き合いに出されなくてはいけないのか。
いや、それ以上に、あの気持ちが『同情』と片付けられてしまったことに苛立った。

「情で他人を好きになるかよ!」
「わかんないじゃないっ」

彼女はぼろぼろと涙をこぼした。
思わず彼は言葉を失う。
彼女のこういう顔は―――とても苦手だ。

「地震で家が倒壊しちゃったのも、お父さん同士が仲良しだったのも、あたしのせいじゃないんだもん!そりゃ、入江くんと同居できてあたしはとっても嬉しかったよ?だけどさ、だけど―――」

彼のそばにずっといること。
他の誰より、彼のそばにいれたから。

――それだけ?
彼女が選ばれた理由はそれだけだと言うのでしょうか。

「あたし、悔しいの!」

もし、他の女性が、彼女の様に彼の家で同居を始めたら。
それでもこうなっていたんだろうと軽く笑っていた女たち。
あわよくば自分がそうであればよかったと、思う女たち。

確かに、琴子には、切符があった。
彼のそばにいれるという切符があった。
その切符を守るために彼女は努力し続けてきた。

それでも――――。

「それでも……同居が無ければ、絶対、無理だったとは思うから」

もし一緒に暮らさなくても2人は絶対結婚していました、と言えるほどの自信は彼女には無い。
またぼろぼろと濡れてしまった頬を彼女はハンカチでぬぐう。

彼は彼女の声が落ち着くのを待って、それから言った。

「それが何か悪いのかよ」

彼女がちらりと顔をあげる。
その瞳がゆらゆらと揺れていて、その目があった途端、ぐっと胸が詰まるような思い。

「地震があって、同居になって、それで結婚して、それで何が悪いんだよ」

琴子が悲しい顔をすると、どうしてこうも、胸が苦しくなるのだろう。
そして何故こうも―――励ましたくなるのだろう。
こんなときに彼女に言葉をかけるべき男は、ちゃんといるというのに。

だけれど、これも自分の役目かな、とも思う。
だってあの男は一癖も二癖もある男だから―――。

「今を見ろ!お前はあの入江直樹の妻なんだろ?その容量の少ない頭で必死で勉強して看護師になって、旦那を支えようと頑張ってるんだろ!確かにお前は落ちこぼれかもしれないがそれでもあの男に結婚しようと言わしめたんだろ!それ以上何を望むんだお前は!」

彼女は目を丸くして、彼の言葉を聞いている。

「啓太…」
「余計な外野に惑わされるなっ、しゃっきとしろ!」

そう言われて―――彼女はにっこりと笑う。
この笑顔も、反則モノだ。
その笑顔の後、彼女はいつもの強い瞳を輝かせる。

「うん!」

きらきらとその瞳で彼を見つめる。

「ありがとう!啓太!」

その足が啓太に向かって歩いていく。
彼は不意に――なんとなく嫌な予感がする。
ある意味、射程距離範囲。
彼女は無自覚だが、それは射程距離範囲内。

涙が残る瞳で彼女はにっこりと笑う。

「……っ、お前、ひどい顔」
「ええっ?」

彼女は自分の顔をぺたぺたと触る。
啓太は危機一髪だと、彼女からそっと離れる。

「俺、戻る」
「あっ、啓太…」

ありがとーねーと言う大きな声で、彼女が手を振る。
やれやれと啓太は大きくため息をつく。
屋上からの下りの階段を歩き始めた時―――その眉を顰める。

「…良い趣味してるな、盗み聞きなんて」

白衣の裾が、小さく揺れる。
啓太の不満げな声に、直樹は無表情で頷く。
やはりあの距離を保っていて正解だったと思う。
もう余計な痴話げんかには巻き込まれたくないし―――やけどもしたくない。

屋上から『よぉーし、午後もがんばるぞおーー』と言う琴子の明るい声がする。

「ったく、立ち直りの早い奴」

ちょっと恥ずかしそうに啓太が言った。
再び階段を降りはじめると、直樹も一緒に階段を降りはじめた。

「お前は上らないのかよ」

彼女のもとに行くとばかり思っていた啓太が尋ねると直樹は当然のように言った。

「たぶんあいつ今から俺の医局へ来るから」
「あっそ」

彼女に来させるのか。ここまで来ておいて。
じとーっとした目で見てやると、直樹は意地悪そうな顔で笑う。

「―――お前のは、同情じゃないんだっけか?」

一瞬何を言ったのかわからなかった。
啓太は直樹の顔をまじまじと見て、それから顔を真っ赤にした。

「おまっ、いつから聞いて―――」
「わざわざあいつを励ましてくれてドウモアリガトウ」

明らかに棒読みで言う直樹。

距離も保った。
触れもしなかった。
余計な感情も―――持たないように見ないようにした。
それでも。

彼にとっては面白くなかったに違いない。
自分からは彼女を慰めたりしないくせに―――啓太だけにはされたくなかったのだろう。

「ゆ、友情だ、今のは」
「ふーん」

珍しい取り合わせの2人が連れだって歩く。

「男は未練がましいらしいからな」

あぁやっぱりこいつは一生食えない奴だろうと、啓太はしみじみ思う。
そして―――敵にも回すのは避けるべきだと。

冷たい視線に堪えながら、一刻も早く医局に着くように祈ったのだった。






( きみが 笑顔でいるために )











最後の言葉がね、悩みます。

まさかの啓太と琴子のやりとりでした。
「悲しい日」を書いてて、啓太を出したら「それもひとつの~」になりました。
なので分けてみました。ちゃっかり。
どちらも入江くんが全然活躍しないと思いました。格好良くない。

次のお題は活躍させます(笑)
この物語は続きませんけど…。



(以下 12月28日 追記)


更新してから「全然イリコトではないって、注意書きするべきだったかなあ」と思ったのですが、石が降ってこなくて助かりました(笑)
入江くんじゃなくて大変申し訳ありませんでした。
入江くんがあの女狐たちをばっさり切る様を、また、琴子を慰める様を期待していた方おりましたらすみませんでした…。

うちの入江くんは「言いたいやつには言わせておけばいい」と外野はとんと無視の傾向にあります。
その代わり外野の言葉に揺さぶられることはまずありません。確固たる自分の考えを持ち、外野の意見など切り捨てているイメージがあるのです。
こういう入江くんについて詳しく書いてみたいという気持ちがあるのですが…いつになるやら…。

今回は啓太になりましたが、本当は入江くん以外だったら誰でもよかったです(ちょっと酷い?)

なんだかんだ言いましたが、つまりは入江くんの手を借りずに立ち直れる琴子ちゃんが好きなんですね。
彼を頼ろうとせず、罵った女狐たちを憎まず、ただただ負けまいと頑張ってる琴子ちゃんって素敵だと思いませんか!?


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素敵なイタキス二次創作に憧れて、うっかり立ち上げてみたブログです。
イリコトってすごく難しいのですが、「別人だよ」と言いながらもがんばって妄想世界へこきだしていこうかと思います。

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