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恋かもしれない35題 08「未来」

2011.12.16 21:11|お題
これは、ノンちゃん手術決意後で、まだ手術してないときのスキマ話なのです。


*  *  *



「あれ、入江くん」

琴子は目を丸くした。
ベッドの上で四つん這いになって、いそいそとメイキングをしている彼女。
彼女の愛しい愛しい旦那様が寝室に入って来たのを見て、意外そうに首を傾げる。

「………」

しばし、彼女は黙って考えた後。

「もしかして、今日はもう寝るのっ?」

とびきりの明るい声で聞いた。

「悪いか?」
「悪くない悪くない!ぜーんぜん悪くない!」

ぶんぶん頭を振って、琴子は否定をする。
その必死な様に彼は苦笑いを浮かべる。

最近、彼は夜遅くまで勉強をしていることが多かった。
彼女が1人で床に入る日々。
寂しくないわけではないのだが―――ほんのちょっと複雑な気持ちで。
それでも彼を支えたいと思う自分がいるから、応援していて。

「わーっ、そうだよね、そうだよね!しっかり寝ることも大事だよっ」
「っうわ、おい、抱きつくなっ」

がばっとひっついてくる彼女をかろうじて受け止めて。
彼はいつものように怒鳴るけれど、そこまでは怒っていないのだろう。
くしゃりと彼女の頭を撫でてくれる。
彼女は幸せで、口元がふにゃと緩む。

「―――良かったね、入江くん」

ぎゅうっと出来る限りの力で彼を抱きしめる。

「ノンちゃん、手術受けるって言ってくれて」
「……あぁ」
「絶対うまくいくし、成功するよ!」
「治すよ。何せ、俺が手術するんだからな」

彼女は顔を上げて、頬を染めて、にっこりと笑う。

「うん!」

彼は少し目を細めて、彼女の顔を両手で包んだ。
それから、そっと触れるだけの口付けをする。
彼女は触れる前から変わらない笑顔で、でも先程より頬を染めた。













「お前、覚えていたんだな」
「え?」
「お前が無責任に、俺に医者になればって言ったこと」

真っ暗な部屋。
彼は天井から目を離さずに、そう言った。
彼女はきょとんとして、ちらりと舌を出す。

「覚えてるよ、あたし、入江くんのことに関しては記憶力良いんだから」
「そうだな。もう少し他のことも物覚えが良いといいんだが」
「ひどいっ」

むぅ、と頬を膨らまして睨んでみせるけれど、やはりあまり怖くない。
彼女はすぐに表情を緩和させ、にまにまと笑う。

「あたしって、すごい?」
「は?」
「だって入江くんの天職見つけちゃったわけじゃない?あたしってすごいよね」

きゅ、と彼の腕を抱きしめる。
彼はその手を素早くふり払う。

「うぬぼれるな」
「ふえぇ~」

がっかり、と眉を下げて口を尖らせる。
誉めて欲しかったらしい。
それがとてもわかりやすくて、彼はそれを見て小さく口角を上げた。

「だけどね、あたしの夢って叶うんだよ」

聞いて聞いて、と彼女は言う。

「夢って叶うんだよ。あたしずっとお願いしてたんだ。入江くんみたいな素敵な人に出会えますようにって」

暗い室内。
鳥目の彼女には、彼の顔がはっきり見えない。
相槌が無いから、もしかしたら聞いていないかもしれない。
ずっと睡眠時間を削っている生活が続いていたから、眠ってしまったかもしれない。
それでも彼女は言いたかった。
伝えたいと思った。

「あたしのことを知ってもらえますようにって」

見つめるだけだった過去のこと。

「嫌いにならないでいてもらますようにって」

迷惑ばかりかけていて、怒鳴られて、それでも。

「ずっと、入江くんのこと見ていられますようにって」

彼女は彼のそばにいれるだけで、本当に幸せになれた。
見返りなど無くても良かった。

「入江くんのやりたいことが、見つかりますようにって」

彼女だけに、医者になりたいと言ってくれた。
打ち明けてくれた、こころのなか。
見えないけれど――だんだん近付いていくような。

「お医者さんになれますようにって」

一度は諦めようとした。
彼女にそう告げた、悲しい声。
夢中で抱きしめた、あの、切ない背中。

彼女は少しだけ声を小さくする。

「―――ほら、全部叶ったんだよ」

自分の胸に手を当てる。
ほわほわと暖かいものが溢れている。

なんて、幸せなのだろう。
今、彼は医者になって、彼女の旦那様で。
いつでもそばにいることができて。

「だから、ノンちゃんの手術も絶対、成功するの」

彼女には見える気がした。
そんな―――素敵な未来が。

「皆が入江くんに感謝するの。だって入江くんはブラックジャック並みに素晴らしいお医者様なんだからね」

そこまで言うと、くくっ、と彼が笑った。

「入江くん?起きてたの?」
「お前って、全部俺なんだな」
「へ?」
「―――全部、俺に『お前の夢』を叶えさせてるんだな、お前は」

軽くベッドがきしむ。
彼が彼女の方へ身体を傾けて、笑っている。
彼女は思わず頬を染めて、ちょっと不満げに彼を見る。

「そ、そう言われれば、そうかもしれないけどっ」

彼に指摘されて、確かに彼女は思う。
彼女の夢はいつも彼に依存している。
好きなんだからしょうがないじゃない、と言いたくなったが言わずに黙る。
こういうことに気付くといかに自分の想いが強いかを思い知る。
2人の気持ちを天秤に並べたら、きっと大きく傾くのだろう。

「入江くん、嫌だったの?」

おそるおそる聞いてみると、彼の手が彼女の髪を梳いた。

「誰もそんなこと言ってないけど」

ためらいなくはっきり言い放つその言葉に、彼女はどきりと胸が高鳴る。
赤くなった頬に彼の手が触れて、優しくつねった。

「赤くなってる」
「そそ、そんなことないでしょ。見えないじゃん暗くて」
「わかる」

つねられた指がふっと離れて、優しく滑っていく。
彼女はぼうっとなりながらもそれを全ての神経で感じていた。

「じゃあ、俺もたまにはお願いしてみようか」
「え?」
「叶うんだろ?お前が願うと」

小さいころからずっとずっと憧れて、夢を見ていた。
そんなこと叶うはずがないと鼻で笑われていても、彼女は未来を思い描き続けた。

思い続ければ叶うことばかりじゃない。
彼女は何度もそれを見せつけられてきた。
それでも立ち上がって、立ち向かってきて―――その先に今がある。

諦めなければ叶うわけじゃない。
それでも思い続けなければ、叶わない。

その強い想いが彼女の未来を作り上げていったのだから。

「…入江くんは、どんな未来が良いの?」

彼の目をまっすぐに見て、彼女は尋ねる。
真面目に。真剣に。

彼はふっと笑って小さく首を傾げた。

「…秘密」
「えっ?そ、それじゃあお願いできないじゃない!」
「いいんだ、それで」

たぶん、彼の願う未来は。
彼女の願う未来と同じなのだから。

平凡で。でも騒がしくて。
彼女がいつもそこにいて、笑っていてくれて。

「入江くんってば、ねえ、ずるいよ」

確かに『彼女の夢』はいつも彼中心に回っている。
だけれど――それはお互い様だ。
彼は言わないけれど『彼の夢』も、かなり彼女中心に回っている。

「入江くんの、思い描く未来ってどんなのなの?」
「さあ」
「ねえねえ!教えてよ!」
「もう眠いから嫌」
「うっ」
「ずっと寝不足だったし。良い奥さんは旦那様を気遣うんだよな?」
「む、むぐぅ…ずるいぃ」

そう言われては何も言えず。追及もできず。
彼女はふとんにもぐりながら、できるだけ彼を睨んでみる。
口を尖らせて不機嫌をアピールしてくる。

彼はくすくす笑って、彼女のご機嫌を取るように―――そっとその頬にキスをする。

「おやすみ」

それから。
また明日、と言ったのだった。







( 明日『おはよう』と 言えるよころび )






苦戦中作品第二弾。
私って苦戦しない話のほうが少ないのかもと思いました。

神戸のときに、入江くん「(医者になればって)言った本人も覚えてないだろうけどね」と言ってたからって書いてみたお話。




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素敵なイタキス二次創作に憧れて、うっかり立ち上げてみたブログです。
イリコトってすごく難しいのですが、「別人だよ」と言いながらもがんばって妄想世界へこきだしていこうかと思います。

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