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恋かもしれない35題 01 「君にしか聞こえない」

2011.07.12 21:20|お題
「恋かもしれない35題」からお題拝借です。

はじめてのイリコトです!どきどき!












  *   *   *




「入江く~んっっ!!」

ばたばたと探し回る、慌ただしい足音。
この病院では名物になりそうなくらい、有名な、彼女。
ナースらしからぬ、ナース。
ふたつにまとめた髪を揺らしながら、病院の廊下を短距離でも走るかのように駆けて行く。
これまた、逆の意味で有名な、彼女の旦那様を探しながら。

「琴子、アンタそんな思いっきり廊下走ったらまたどやされるわよっ」

すでに恒例のようだけれど、一応それでも注意してあげる声。
琴子はキキッと足を止めて、声の主を振り返る。
そのありがたい忠告などまったく無視。
彼女には、それよりもっと大事なことがあるようだった。

「あっ、モトちゃん!入江くん見なかった!?」

「え?入江先生?さあ?医局にはいなかったけど」

「う~…こんなに探し回ってるのに見つけられない!」

「アンタ仕事はいいの?清水主任にまた怒られるわよ」

「入江くんが見つかればすぐ戻るから!」

本当に騒がしい足音を響かせて、彼女は怒涛のように立ち去って行った。
桔梗は唖然としてそれを見送った。
止めることなどできやしない。
それを見ていた患者すらも、『また琴子さんだね』とくすくす笑っている。

「まったくもぉ…」

肩をすくめて大きなため息。
琴子の最優先事項など、後にも先にも彼のことしかない。













「はぁ、はあ、いた!」

「何だよ、騒々しいな」

「い、入江くん!」

息を切らせて、彼女は彼のもとへ駆け寄る。
シーツがたくさんなびいている屋上。
ぼんやりと彼はフェンスに寄りかかっていた。
ぜーはーぜーはーと彼女は自分の膝に手を置く。
走り回ったせいで、髪は多少崩れている。

「よ、良かった!会えた!」

「別に用は無いけど」

「あたしにはあるの!」

彼女は息を整えながら、彼を見据える。

彼女の旦那様は、素晴らしいお医者様だ。
彼女はそれがとても誇らしい。
たくさんの人を救えて、たくさんの人を助けて、それができる彼。
患者も職員も彼に一目置いている。
そのそつのない仕事ぶりに加え、その何もかも揃った容姿や出生なども、彼の名前をこの病院で有名にさせる原因なのだが。

「なんだよ」

今の端正な表情からは、彼が何を考えているのかわからない。
だけれど、その表情をじっと見つめていると、彼女の胸に何かがじわじわと広がって行った。

まっすぐな、彼女の瞳。
それが、ゆっくりな瞬きをして、それから一気に2、3粒の涙がぼろぼろと落ちてきた。
彼はため息交じりに、呆れたように察する。

「―――噂が、早いな」

「ひどいよ、ひどいよ、入江くんのこと、何も知らないくせに」

若き医者であり、天才と称される彼。
完璧だからこそ、人は憎らしく思うのだろうか。
何もかも、恵まれて見えるのだろうか。
もちろん、彼は恵まれて生きてきた。
誰だってそう思うのだろう。
だけど、それは―――彼が選んだことじゃない。

「お前がなんで泣くんだよ」

彼が患者の家族にひどく罵られたというのを彼女は人づてに聞いた。
もちろん彼はやられっぱなしの人間ではない。
その場で上手に切り返して、相手をやりこめてしまった。
『さすが入江先生』、『あそこまで言わなくても』等、人々の好き勝手な噂になっている。

「だって、だって…」

彼女はぐしぐしと自分の顔をこする。
とめどなく溢れてくるその涙は、全てまっさらで純粋な気持ち。

「入江くん、患者さんのこと見下してなんかいないもん!お医者さんになるのだって、あんなに勉強してがんばって…、それは患者さんを治したいって気持ちがあったからで…それなのに、あんなにひどいこと言うなんて!」

「慣れてるよ」

「あたしは慣れてない!」

天才、と称された過去から、彼は色んな目に曝されてきた。
それは羨望だけじゃない。
嫉妬も憎しみだって、彼にとっては慣れっこだ。

「お前が泣いたってしょうがないだろ」

「っ、く、仕方ないじゃない、勝手に、落ちてくるんだもん」

ひっくひっくと、彼女が小さな肩を震わしながら泣いている。
それを見る彼の瞳は少し細められている。

慣れっこなはずだ。
だけれど、こんな彼女を見ると、まるで、痛いところを優しく撫でられたような気持になる。
その途端、その傷口が見えなくなり、優しいぬくもりだけがそこに残っていく。
不思議な魔法。彼女だけに使える魔法。

「…泣くな、琴子」

おれは大丈夫だから、と言うと、彼女は勢い良く彼に抱きついてきた。
それを受け止めながら、彼は口角を少し上げる。


優しい、ってこういうことを言うのかもしれない。


彼はそんなことを思った。
彼のために、泣いているわけじゃない。

彼女は、泣くことで彼に何かをしてあげたいわけじゃない。
ただ、ただ、悔しいのだ。悲しいのだ。
彼を罵った人間が許せないのだ。

その偽りのない感情はいつだって、彼をどこか安心させる。


「入江くんは、絶対幻聴だって言うだろうけど」

「ああ」

「入江くんが、悲しいって、言ってるような気がしたんだもん!」

「幻聴だ」

「…わかってるけど!私のエゴだとわかってるけど!」

でも、とわんわん泣く、愛しい彼女の頬に彼はそっと手を伸ばす。
顔を上げさせて、その溢れてやまない涙を、そっと舌で拭ってやった。





――― ありがとう、琴子。





それは言葉には発せられなかったけれど―――少しでも彼女に届けばいいと彼は思う。










( 君にだけ、聞こえていれば、それで )














   *   *   *





入江くんが別人だ(笑)
イリコトってむずかしーですね…。

入江くんのことで本当に怒ったり泣いたりする琴子が大好きです。
抱きしめてやりたくなります。
入江くんは本当に気にしてはいないつもりなのですが、こんな琴子がいると、ほっとするんじゃないかなと思います。







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コメント:

拍手コメントありがとうございましたw

emaさんへ

ありがとうございます♪
もしやemaさんはあのemaさんでいらっしゃいますか??違っていたらすみません…。
うちのブログの初拍手コメなんで、感激もひとしおです@@;
しかもemaさんにいただけるなんで…鼻血でちゃう…^^;
すっごくすっごく嬉しいですww
emaさんの足元にも及びませんが、これからもがんばっていきますーーww
ありがとうございました♪

いつも新鮮に初コメ気分です

先ほど、はじめてコメントしますと多分2度目のコメントを残したemaです。
拍手コメへの返信ありがとうございます「
あのがつくほどのものではないですが、ネットの片隅に駄文と落書きを置いておりますi-201

これからの創作を楽しみにお邪魔させてくださいね!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

拍手レスですw

Foxさん
>>拍手ありがとうございます♪
まっすぐなのは琴子ちゃんの素晴らしいところですよねw
私もそんな琴子ちゃんが大好きですww
拍手ありがとうございましたw



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Author:嘉村のと
素敵なイタキス二次創作に憧れて、うっかり立ち上げてみたブログです。
イリコトってすごく難しいのですが、「別人だよ」と言いながらもがんばって妄想世界へこきだしていこうかと思います。

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